ロシアの独立系時計工房SR(エスアール)の時計師ルスラン・スキューテはソビエト連邦が1991年に崩壊していなかったら、広い海を航海する船の船長になっていたかもしれません。当時、ルスランは北極海事研究所で海洋分野の勉強をしていました。 しかし共産主義の崩壊で衰退してゆくロシアの海洋分野の将来性に疑問を持ち、家族の勧めもあって宝飾美術学校で宝飾品制作を学びました。
ルスランは宝飾、彫刻、七宝焼を学び、卒業後にアルハンゲリスク最大の宝飾品メーカーに就職し15年間近く経験を積みました。 やがて彼は宝飾品メーカーが提供する以上の物を作りたくなる衝動に駆られ、車やバイク、ガレージにある物を売った資金で最先端の設備を揃えました。そうして制作した作品は大成功を収めました。そしてルスランはある日、ある腕時計を見つけました。
「欲しいと思う腕時計を見つけたけれど、扱っているお店が見つかりませんでした」とルスランは言いました「 それで自分で同様なものを作ることにしました。 様々な試作をして完成まで1年かかりました。 完成する頃には、時計を作ることが自分の本当にやりたいことだとわかりました」
SRの拠点であるアルハンゲリスクはロシア北部の白海に面した港湾都市として知られています。「アルハンゲリスクで時計を作っているのは私だけだと思います。」ルスランは言います「インスピレーションはいつやって来るかわかりません。眠りに入る時や映画を観ている時もあります。 それから、そのアイデアを様々な角度からみて、どうやって具体化するかを考え、最後に特別なプログラムでCGの画像を描きます。しかしこの様々なアイデアをどうやって組み合わせるか、が最も難しいところです。 最も信頼でき、耐久性がある方法を選ばなければなりません。 私がどうやってそれを決めるかは自分にも謎です。 インスピレーションはどこから来るのか?宇宙でしょうか?」
ルスランはスイスのムーブメントを使用しますが、他の時計師と違い自分で時計のケースをすべて手作りしています。 ルスランの作業場には金属切断レーザー2台とCADCAM機械の最先端設備が装備されています。
「作っている時計は私のスタイルを楽しむ人のためのものです」とルスランは言います。「お客様が私のところに来ると、お客様の持ち込んだアイデアをイメージしたり、アイデアが浮かんだりします。 時計が完成するまで2、3ヶ月かかります。 しかし、完成すると、お客様の時計が世界で唯一の時計である事がわかります。」